こころの栞

ア字のふるさと

 弘法大師第三番の御詠歌は「ア字の子か ア字のふるさと立ち出でて また立ち還る ア字のふるさと」と申します。
 
 ア字は、宇宙の根本の仏様である大日如来さまを表します。仏様にはそれぞれを表す梵字があります。アが大日如来様を表し、観音様はサ、お地蔵様はカで表します。
 
 では、どうして大日如来様がアなのでしょう?それはすべての大本、始まりの音がアだからです。
 「アイウエオ」を母音と言い、母音の中では、アは一番はじめにありますから、大いなる母の音です。
50音はアで始まる、アルファベットもAで始まる。洋の東西を問わず始まりの音はアなのです。
 
 全ての始まり、全てを生み出す音ですから、私たちは生まれてくるときに産声で「アー」と言ってうまれてきます。
日本では「オギャー」と書きますが、実際は「ア」に近い音です。私は大日如来様から命をいただいて生まれてきましたよ、と宣言しているのです。
 
 これが「ア字の子が ア字のふるさと立ち出でて」です。驚いた時に思わず「ア!」と声を上げますし、足を踏まれたら痛いの前にアを付けて「あいた!」と言ってしまいます。始まりの音であるアがまず出てしまうのです。

 そしてこの世の命を終えてた時、「また立ち還る ア字のふるさと」と、大日如来様のもとへと帰っていくのです。

 自分の命がどこから来てどこに帰るのかがわからないと不安です。旅行に出ても、帰る家があるから安心して出られますよね。帰る場所が無かったら放浪になってしまいます。

 私たちは仏様の命をいただいてこの世に生まれ、また仏の世界へと帰らせていただけるということを、この歌は教えてくださっています。

越前市 弘法寺副住職(高野山本山布教師)
    齋藤 智弘



↑ ページTOPへ